【介護職の所得が低いのはなぜか。事業構造それ自体に問題があるのは言うまでもない。が、そこで働く人々にも、おおいに理由があるのだ。 もろみ五郎】
職員A「五郎氏の言うとおりだな。確かに、儲からない構造になってはいる。なんせ、加算獲得合戦の場だからな」
職員B「そうなんですよねえ。夜勤何名でいくら加点、看取り何名でまた加点、って具合で、介護保険の点数をいかに上げてゆくか。これが経営者の腕の見せ所ですものね」
職員A「そうなんだよな。高収益の商品やサービスを開発してそれを大量に流通させて儲ける、っていう、営利企業が普通にやってるようなことができない。いきおい、加算分捕りの方向に向かざるを得ない」
職員B「でもそうすると、点数増に伴って、業務量も増えますからねえ。職員一人当たりの還元率は下がりますね」
職員A「うん、確かに。ただ。そういった構造的な問題以外に、個々の職員の質という点も無視できない。今回の論点はここだ」
職員B「そうですよねえ。びっくりするぐらいに無気力だったり、虐待に近いほど暴力的だったり、とんでもなく横柄だったりと、福祉の仕事以前に、社会人としてどうなの、って問いたくなる輩が少なからずいましたねえ」
職員B「そうそう。私が働いていた老健では、利用者の男性に向かって、そう、面と向かってだよ、こう言い放った女性職員がいた。
あんたなんかねえ、息子に殴られて死ねばいいんだよ。
…耳を疑ったよ、このときは」
職員B「その職員、まだいるんですか」
職員A「たぶんね。人手不足だからな、明らかな犯罪行為でもなければ、クビにはなるまい」
職員B「嘆かわしいですよね、ほんと。今の例ほどじゃないんですけど、僕がいた特養で、看取りで余命いくばくもない利用者さんの部屋から出てきた女性職員がですね、
ねえ、もうじき死ぬ人の部屋の中って、独特の臭いがするよね。
…死臭がするって言いたかったんでしょうかねえ」
職員A「暴言もいいところだな、全く。まあ、その程度の意識しか持たず働いてる連中というのは、決して少数派じゃないんだよな。食事介助の方法にしても、鶏にエサ上げるときの方がマシだな、って言いたくなるようなやり方が堂々とまかり通る。入浴介助だって、大根を洗うようにして、さっさと流れ作業で終わらせてしまう」
職員B「そうですよね。でも、そういった介助技術や個々の業務のやり方以前の問題として、被雇用者としての意識の低さもあると思うんですよ」
職員A「それなんだな、実際。賞与の支給が2か月遅れても、誰も文句を言わない。もらえりゃいい、って姿勢なんだな。どこもそうとは言わないが、働く者の権利という視点が弱いんじゃないだろうか」
職員B「それとですね、一般企業では普通にできてることができてない、っていう点も指摘したいですね。例えば在庫管理。オムツ等の衛生用品の管理がいい加減なんですね。何があと何ケース残ってるか、誰も把握してない。食品その他の廃棄ロスが出た場合、具体的にいくらの損になるか、誰も勘定しようとしない」
職員A「そうだよなあ。まだまだ出てきそうだけど、この辺で締めよう。まあ、要はだな、職業人としても、専門職としても、いずれも大きな疑問符を付けざるを得ない労働者が目立つってことなんだよ」
もろみ五郎「その通りである。君たち、もしも自分がその施設の経営者だったら、と考えてみるがいい。その程度の従業員に、世間並みの給料を払おうと思うかね」
両職員「思いません」
(了)
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