介護現場での暴力沙汰。なぜなくならないか、真剣に考えてみた。
【介護士による犯罪が後を絶たぬ。 ”自称介護福祉士が云々…” という記事を見た人は多かろう。聖なる職業であるべき介護士が、なぜ罪を犯し続けるのか。野次馬根性を捨て、ひとつ真剣に考えたいものである。 もろみ五郎】
職員A「犯罪という表現で言うと、違法行為がそれに該当するだろう。でも、それには至らない不適切な行為、ってのもある。まあ、今回はあまり広げず、違法のみに絞るということだな」
職員B「そういうことですねえ。<不適切>まで範囲におさめてしまうと、論じきれなくなりますよ」
職員A「そうだよな。明らかな違法行為と言えば、いわゆる ”虐待” が挙げられると思うのだがね、これもけっこう微妙なんだよな。例えばベッドの四囲を塞ぐ四点柵だ。出られなくなってしまうから虐待だと言うんだが、五郎氏が居た老健では、当たり前のように実施されていたらしい」
もろみ五郎「そう。利用者の一覧表に✓を入れられ、『こことここが四点柵だからね、間違えないようにね』…と、さも当然の如く指示されたものだ」
職員B「職場全体の認識度の問題ですよねえ、それは。何が悪いことか、基本に戻って勉強しなおすしかないでしょうね」
職員A「私が以前働いていた特養では、ある職員が、ほんの冗談のつもりで、飲料のペットボトルを利用者さんの頭の上にのっけてしまった。これが大問題となり、市当局まで巻き込んだ事件に発展したんだな」
職員B「まあ、くだんの職員さんは、まさかこんなのが…、との思いだったでしょうねえ。正直ぼくも、そこまで話広げなくてもいいんじゃないの、って思っちゃいましたよ」
職員A「まあ、これは微妙な案件だろうな。たぶん、車椅子利用の全介助の老人だったと思うんだな。自力で動けず、意思表示も満足にできない人が対象だったから、そこまで大きな話になったのかもな」
職員B「なるほど。新聞沙汰になるような、事件性の高いものを論じるとなれば、暴力事件ですかね」
職員A「そうだな。性犯罪に至る事例も出てきているが、これはもう、当人の人間的成熟度の問題だろう。まあ、今のご時世、動画などでひと儲けをたくらむ輩がうじゃうじゃいるからなあ、昨今の学校教師の事件みたいに、そういうのを収集しては悦に入るなんてのもいるだろう。が、今回当サイトで扱いたいのは、いつの世にもある基本的な暴力沙汰なんだ」
職員B「たまに見かけますよねえ。かっとなった職員が高齢者を殴ったり、窓から放り出したなんてのもありましたねえ」
職員A「そうなんだな。まあ、報道関係者は、何でもやり玉に挙げて攻めるのが仕事だからな、そういうのはかっこうの材料になるんだろう。が、ここで論じたいのは、 ”かっとなる” という衝動は、たぶん誰にも起こり得るってことなんだ」
職員B「同感ですねえ。とくに夜勤が危ないですよね。なんせ自分一人なんだから」
職員A「そうなんだよな。二名体制の大型施設の場合でも、自分以外の職員が抑止力として機能するかと言えば、そうとも言い切れない。実際の話、二人で犯行に及んだ例もあるからなあ」
職員B「二人でやるってことは、明らかに冷静な判断の段階を経ていますよね。複数名が同時に同じ衝動に駆られるのは不自然ですよ」
職員A「そうだよな。まあ、あり得なくはないだろうが、計画的犯行とみるのが妥当だよな。でも、そうではなくてだな、まったくの衝動的行動だった場合はどうだろう。これは誰にでもあり得ると思うんだが」
職員B「同感ですねえ。とくに深夜ひとりで対応してるときなんか、もうぎりぎりの状況で必死になってやってるのに、相手から暴言を吐かれたり、或いは、まったく指示が入らなかったりすれば、ついかっとなって…ってのは、誰にも起こり得ますよね」
職員A「そうなんだよな。日ごろまじめで、言葉遣いにも細心の注意を払っているような模範的職員であっても、なんせ人間だからな、(ここまでていねいにやってあげてるのに、その態度はないだろう)…ってな具合に考えてしまうと、態度が荒れてしまい、気付いたら暴力に発展していた、というのはあり得る話だよ」
もろみ五郎「実は私もそんな衝動に駆られて苦しんだ覚えがある。君たちはどうだね」
職員B「ありますよ、ぼくも。思いっきり蹴とばしてやろうかと思ったり」
職員A「殴られたら、反射的に殴り返したくなりますよね。相手がいくら高齢者でも」
もろみ五郎「そうなのだ。一度も頭に来たことのない介護士などいないはずである。では君たち、どうすればこの危機を乗り越えられると思うかね」
職員B「一職員でできることと言えば、心身の調子を常に整えて、健全な状態で業務に臨めるようにするってとこですかねえ」
職員A「職場全体としては、職員間の意思疎通が容易な風土を作ること、意識を高めるための話し合いの場を多く儲けること、個人ではなく組織の問題として扱い、決して特定の職員だけを責めないこと、かな」
もろみ五郎「そうだな。一般的結論に落ち着きがちな論題であるが、まあ、特効薬はないのであるから、基本に忠実にすすめてゆくしかないであろうな。夜勤や入浴介助、排泄介助など、利用者と一対一になる状況がとくに危ない。誰かに見られていなくても、平常心で業務を遂行できるよう、日頃から自分を鍛えておかねばなるまいな」
職員B「気分転換も必要ですよねえ」
職員A「そうだよな。五郎氏は何かやってますか、煮詰まってしまわないように、息抜きというかガス抜きというか」
もろみ五郎「誰にも邪魔されない場所で本を読んだり、音楽を聴いたり、というところかな。つい最近、エルトン・ジョンの1977年5月の英国ライブのCDが出た。今はこれを楽しんでおる」
職員B「いいですねえ。ぼくも映画見に行ったりして、気分変えるようにしてますよ」
職員A「相談できる人がいなかった、って声をよく聞くもんな。誰かに言える空気を作るというのは、組織風土だけじゃなくて、まずは当人の意識改革が先じゃないかな」
もろみ五郎「よい結論である」
(了)
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