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日本人に日本語は必要か(1)

【われらは日本人であり、日本語を話して生活してきた。まったくもって疑いを挟む余地のない自明の理であるはずのことを、それがなぜなのか、と議論せねばならぬ時代が到来したのである。不毛の議論に終わるかもしれぬが、とにかく始めてみたい。もろみ五郎】

 

 

知識人「まず決めておきたいんだが、日本人、日本語という呼称については、この場では疑う余地なしとしておきたいんだな。そうしないと、話が全然すすまないからな」

文化人「そうですよねえ。前提事項の再検討から始めたら、いつまでたっても本論に入れませんからね。いいでしょう、それで」

知識人「当サイトでは、過去、と言うのも大げさだな、今月に入って数回、カタカナ語の是非について論じてきた。だが、すぐに行き詰った。末端の事象ばかり拾っても、課題は見えてこないし、徒労感に襲われてやる気をなくすだけだ、という話になったんだよな」

文化人「そうそう。だから、日本人が日本語を話すべき理由ってのを探ろうじゃないか、と」

知識人「さらりと言ってのけたものの、これ自体、かなり重いんだよな。わたしたちの存在理由にもかかわる重大事項だろう」

文化人「まあ、そうなんですけど、きょうは初回ですから、深刻ぶらずに楽しくいきましょうよ」

知識人「そうだな。では問うが、君はその理由を何だと思うね」

文化人「単純に言えば『日本人だから』ってのが答えになるんですけど、では『なぜあなたは日本人なのか』と続けて問われたらどうこたえるか。ぼくはここにすべての鍵あり、と思ってますがね」

知識人「うん、つまりそれは」

文化人「日本列島に棲みついて、延々と長い時間暮らし続けてきた民、それが日本人ですよ。だから、『なぜあなたは日本人なのか』という問いに答えると、『ずっと日本列島に住んできた民族だからだ」となりますね」

知識人「住んでまだ浅ければ、それは日本人とは言えない、と」

文化人「どうですかねえ、それは。日本人としての意識の問題もあるとは思うんですが、まあ、ここではおいといてですね、大切なのはですよ、この列島の大地と、山野や海・河と、ともに生きてきたのか、ってところだと思うんですよね。本来、民族と大地ってのは不可分の関係ですよね。放浪の民だったユダヤ人も、自前の国家を持ちましたしね」

知識人「日本列島で暮らしてきた民族、それが日本人である、ということだな。では、それが日本語を話すべき理由は」

文化人「この列島に育まれた民なんですから、そこで発生し、発展した言語を使用するのは当たり前でしょう。議論の余地なんかないことですよ」

知識人「ところがその、根っこのところが危ぶまれているわけだ。日本に生まれ育ったという、ただそれだけで、日本語を話さなきゃならない理由になるのだろうか」

文化人「大地と切っても切れない関係、というのはですね、その土地で、その言葉を話し続けてきたことで、ぼくらは大地と一体化した存在だと、ぼくは思うんです。

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