橋幸夫:認知症になった有名人㈠
【橋幸夫が逝去したのは2025年9月4日である。直接の死因は肺炎だが、脳梗塞とアルツハイマー型認知症を患っており、死の数年前から病状は進行していたようだ。その流れをここにまとめると、以下のとおりである。
2022年、軽度アルツハイマー型認知症
2023年、脳梗塞(右頭頂葉)
2024年、中等度アルツハイマー型認知症
2025年5月31日、一過性脳虚血発作で自宅から救急搬送
2025年9月4日23時48分、死去。享年82。 (以上、出典:Wikipedia)
…最後まで歌への情熱を失わず、向学心にも燃え、前向きな生き方を貫いた。認知症を恐れず嫌わず、自然体で前進し続けた好例として、長く記憶にとどめておきたい人物である。合掌 byもろみ五郎】
橋幸夫の死因(肺炎)。認知症との因果関係や如何。
初老男A「アルツハイマー型認知症の診断が、軽度から中等度に進むまで2年となっているんだが、これは初期診断の時期にもよるんだな。もしかしたら、もっと前に軽度の状態になっていたかもしれないし。まあそれはいいとして、最期の頃は重度認知症によく見られる症状を呈していたようだから、おそらく3年で軽→中→重、と進行したんだろうな」
初老男B「認知症と肺炎、って結び付けた場合、すぐに思い浮かぶのが誤嚥性肺炎ですよねえ。アルツハイマー型に限らず、認知症が進んだ人に必ず付きまとう危険性と言っていいでしょうね」
初老男A「そうなんだよな。わたしも君も現役介護士だが、君、誤嚥って何か知ってたかい」
初老男B「まったく初耳でしたねえ、この仕事始めるまでは。ゴエンって聞くと思い浮かぶのは<五円>か<ご縁>ぐらいなものでしたからね」
初老男A「右に同じだな。いつだったか、アジアから来る研修生たちが、誤嚥と褥瘡の漢字が書けなくて困っているって新聞記事を読んだことがあるがね、まあ、こんなのは医療用語にごまんとあるよなあ」
初老男B「ありますよねえ。ぼくは<鼠径部>って漢字が書けなくていつも困るんですよ。もっと簡単な表現にしてもらえないものですかね」
もろみ五郎「君たち、話が主題からそれておるぞ。漢字については、また別の機会を設けようではないか」
初老男A「別の機会って、いつですか」
もろみ五郎「わからぬ」
初老男B「また出まかせを。そうやってその場しのぎばかりやってるから、還暦過ぎても失敗ばっか続くんじゃありませんか」
もろみ五郎「大きなお世話だ。先に進みたまえ」
初老男A「認知症が疑われた初期から、誤嚥には気を配っておく必要があるだろうな。わたしたちは、飲食物すべて普通に食道を通過すると思い込んでいるが、認知機能の低下により、それがままならなくなる。呑み込んだものが、食堂ではなく気道に行ってしまうわけだ」
初老男B「喉の奥には蓋があって、飲食のたびに気道を塞いで、ものが食道に流れるようにしてるんですよねえ。その蓋で塞ぐ機能に不具合が生じるってことですよね」
初老男A「そうなんだよな。気道に飲食物が入ると、当然そこは食べ物のための場所じゃないから、炎症を起こす。それが誤嚥性肺炎ってわけだ。橋幸夫さんが誤嚥性肺炎だったかどうかわからんが、ある時点から嚥下機能が著しく低下していて、飲食物が気道に入り込んでいってたんじゃないのかな。まあ、いい加減な推測は慎みたいが、可能性としてはじゅうぶん考えられるね」
初老男B「口とか耳とか、顔のどの部分も、結局は脳の出先機関みたいなものですから、脳が正しく情報処理できなくなれば、飲食も味覚も、嗅覚も視覚も、少しずつおかしくなっていくんですよねえ。口から胃への流れは、脳が正常に動いていてはじめて可能な経路ってことなんですよね」
初老男A「まあ、五感すべてに異常をきたすって人ばかりじゃないが、だんだんおかしくなっていくのは確かだな」
橋幸夫は、認知症になっても活動し続けた。
初老男B「認知機能が衰えたらもうおしまい、みたいな世間の認識がありますけど、決してそうじゃないんだという好例を、橋幸夫さんは示してくれましたよねえ。アルツハイマー型認知症の診断を受けて以降、彼は以下の如く活動を続けました。
2022年、京都芸術大学通信教育部書画コース入学
2023年、浅草公会堂にてコンサート開く
2024年、大宮ソニックシティにて歌手活動再開
2025年、滋賀県にてステージに立つ
…最後のステージは、なんと死の三ヶ月前ですよ。この活動力、意思力。勇気をもらいましたねえ、ぼくは」
初老男A「同感だな。確か、西城秀樹もそんな感じだっただろう。最期までステージに上がり続けたよな」
初老男B「このまま死んでたまるか、っていう意地を感じますよねえ。気力だけで生きると言えばずいぶん失礼な表現になっちゃいますけど、実際の話、体はまだ大丈夫なのに気力を失ったために亡くなったとか、廃人同然になってしまったって例はありますもんね」
初老男A「そうだよな。リハビリに励む怪我人が、『無理しないほうがいいよ』と声をかけられたことで一気に身体機能を低下させたなんて例はけっこうあるからなあ。気力、気合っていうのは、単に精神論に逃げるのではなく、人体を支える極めて重要な条件なんだろうな」
まとめ
初老男B「さて、まとめですか。いつもここでぐっと気分が下がっちゃうんだよなあ」
初老男A「それこそ気合で乗り切るしかないだろう。まとめて言えばだな、
1)橋幸夫の死因・肺炎は、誤嚥によるものではないだろうか。その可能性大である。
2)しかし、氏は病気などものともせず活動を続けたばかりでなく、大学入学など、自らのあらたな可能性を切り開こうとの姿勢を見せ続けた。この生き方こそ、老化してゆくわれらみなが見習うべきであろう。
…といったところだな。五郎氏、どうですか」
もろみ五郎「まったく同感である。わけても認知症は、不治の病の如く嫌われ恐れられているが、それと闘うでもなく避けるでもなく、ごく自然に共存しつつ最期まで活動し続けることが可能なのだ、と橋幸夫氏は教えてくれた。ただの芸能人の死と片付けてしまうことなく、病に負けなかった勇姿を、われら一人一人が心に刻んでおくべきであろう」
(了)
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