では、役に立つ<レク>とはどういうものか
【本日は広島に原爆が投下された日である。一瞬でこの世から消された人々、地獄をさまよった人々、人生を捻じ曲げられた人々。当時の広島のみなさんに哀悼の意を捧げつつ、本記事を始めたい。 もろみ五郎】
職員A「きょうの主題とは関係ないけど、原爆投下については、着実に忘れられてるよな」
職員B「おっしゃる通りですよねえ。学校で教わらない、家庭で教わらない、地域で教わらない。指導できる人がいないんだから、話になりませんよね」
職員A「いよいよもって、末期的だな、わが日本は」
もろみ五郎「その主題は、姉妹サイト【よろずのことわり】で詳細に論じられるであろうぞ。きょうのところは、表題の通りでいこうではないか」
職員A「そうですね。では、ええと、役に立つレク、ですね。入居者みんな一括ではなくて、個別に対応すべきじゃないか、というのが前回の結論でしたな」
職員B「じゃ、個別レクって何だろう、と具体的に考えなきゃいけませんよね。各人の好みに合わせたもの、という点から考えていきますか」
職員A「まあ、その ”各人” がいないからなあ、決めようがない。だから、とりあえずはいくつかの型を例示して、それを実際に現場で活用していくって話になるだろうな。君、何か具体案はあるかな」
職員B「そうですねえ。文字クイズとか計算問題とか、いろいろ作って提供してみたことはあるんですけど、ああいうのって、介護系ウェブサイト探せば大量にあるんですよね。そこから引っ張ってきた方が早いなあ、って感じましたね」
職員A「そうなんだよな。私はベネッセのサイト<介護アンテナ>をよく利用したがね、まあ、いろんな種類があって、あれはよくできたサイトだな」
職員B「同感ですねえ。中には使えないのもありますけど、なかなか工夫されてますよね。基本型はあれでいいと思うんですよ。計算問題、間違い探し、塗り絵、文章問題などなど。でも、職員の創意工夫力が育ちませんよね、出来合いの情報にばかり頼っていては」
職員A「そうなんだよな。それに、ただ他から借りてくるだけじゃ面白くないしね。できれば自力で発想したものを提供したいよな。以前、特養にいたとき、言葉の並べ替え問題を手作りしたことがあるんだがね。大正生まれの女性で、認知症がけっこうすすんでたんだが。静岡県沼津市のご出身でね、 『わたしは、静岡県沼津市で生まれました』という文を厚紙に貼りつけて、それを文節ごとにハサミで切ったんだ。
わたしは 静岡県 沼津市で 生まれました
…こうやって四分割して、目の前に置いた。次に四つの順番をばらして、もとに戻してみましょう、って声を掛けたんだ。ううん、としばらく考えた末、彼女が置き換えたのは、
わたしは生まれました
…だけで、あとのふたつは手を付けなかった。始めと終わりしか、意識に残らなかったんだな」
職員B「なるほど。でもそういうのって、毎回手作りしていかなきゃならないから、大変でしょ」
職員A「そうなんだな。結局これっきりで終わってしまった。まるで認知症の人を実験台に使ったみたいで、実に後味の悪い試みだったよ」
職員B「難しいところですよねえ、そこは。ぼくも高齢者を試すような姿勢では取り組みたくないけど、ある程度はそれもやむを得ないって気もするんですよね」
職員B「そうだよな。でも、学校じゃないんだからな。気楽に楽しんでいただきたいんだが」
職員B「計算問題を出してみたら、職員より早くて正確だった、ってことがありましたねえ。こんなの簡単よ、なんて言われちゃいましたよ」
職員A「まあ、それはやってみないとわからないことだからな。やってみて初めて、ああこの方には簡単過ぎたんだなあ、ってことがわかる。そうなれば、次はその人向けに難易度を上げたものを提供できるだろう」
職員B「そうですよね、そうして少しずつ、個別対応の幅を広げてゆくのが正しいやり方なんでしょうね」
・・・といったところで、次回に続く。
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