老後の趣味の実例:<定点観測>
【老後の趣味について、また考えてみたい。表題にある<定点観測>とは、文字通り、同じ場所で同じ時刻に同じものを見続けることを言う。こう聞くと退屈と思われるかもしれぬが、なかなかどうして、立派な趣味になり得るのだ。『シニアマーケティング研究室』の2022年の記事を参考に論じてみることにしよう。byもろみ五郎】
高齢者の趣味の傾向:年齢が上がるほどに活動量が減る。
初老男A「五郎氏の言ってる記事は、日本SPセンターのシンクタンク部門・シニアマーケティング研究室の記事『75歳が分岐点か? 年齢階級別に見たシニアの趣味人口』のことだ。2022年11月15日から3回に渡って掲載されたもので、もう3年以上前ではあるが、2026年現在でもじゅうぶん参考になる」
初老男B「75歳以上で激減する行動者数、ってところを見てみますと、スポーツ観戦、美術鑑賞やコンサートなど、自ら足運ばなきゃなんない趣味に興じる人の数が減ってるんですよね。まあ、ぼくたち男性の寿命は80歳あたりですから、当然と言えば当然な気もするんですけどね」
初老男A「老後の趣味ってキーワードで検索したらいろいろ出てくるが、そうやって年食ってから探して始めた趣味だとしたら、しっかり身につかないうちに飽きてしまうのかもしれないな。定年で時間がたっぷりあるとはいえ、気力体力ともに弱っていくんだから、体を動かすことは面倒になってしまうんだろうなあ」
初老男B「ぼくたちもまもなく65歳ですから、他人事じゃないんですよねえ。でもまあ、家でじっとして取り組むことよりは、体力の許す限り戸外に出てやるほうがいいなあ」
初老男A「それは人それぞれだと思うが、頭と体どちらも適度に使うのをおススメしたいね」
もろみ五郎「そう。今回の主題<定点観測>は、その意味でもうってつけなのだ。習慣は人を呆けさせないものだからな」
初老男B「それで思い出すのはですね、ぼくの先輩が定年後にマンション管理士の勉強して某マンションの夜警さんをやってるんですけど、朝になると必ず、職場から見える空の画像を撮ってSNSに投稿してるんですよね。これはまさに定点観測でしょ」
初老男A「まったくだな。仕事の一環としてやってるようなものだから、無理せず継続できるよな。空と言えば、かつて雲の日記を書いた作家がいただろう。正岡子規と、島崎藤村も確かそうだった。子規の明治31年の日記を見ると、
12月15日:朝晴れて障子を開く。赤ぼけたる小菊二もと三もと枯芒の下に霜を帯びて立てり。空青くして上野の森の上に白く薄き雲少しばかり流れたるいと心地よし。われこの雲を日和雲と名づく。午後雨雲やうやくひろがりて日は雲の裏を照す。散り残りたる余所の黄葉淋しげに垣ごしにながめらる。猫のそのそと庭を過ぐ。
16日:快晴、雲なし。
17日:雲なく風なし。空霞み庭湿ふ。 …以上、『青空文庫』より抜粋。
…これを見てわかる通り、毎日詳しく書かなくてもいいんだよな。肩の力を抜いて取り組むのが、長続きのコツだろう」
初老男B「まあ、子規は若くして亡くなりましたから、老後の趣味ってのじゃないですけど、これも定点観測と言えますよね。要は習慣化ですよ。ほぼ同じ時刻に同じことをやるっていうふうに、頭と体が覚えてくれていれば、老人になってからも当たり前に続けられるんじゃないですかねえ」
定点観測は、頭と体を無理なく使う。とても健康的である。
初老男A「五郎氏の体験談も聞かせてほしいですね。自宅の近くで定点観測したんでしょう」
もろみ五郎「いかにも。わが自宅の近所に広大なマンション群があってな、ここの広い広い庭にさまざまな植物が植えられている。それぞれに名前入りの札が付いているから、植物に疎い私にもよくわかる。それであるとき、早朝に出かけて庭の隅々見て回った。千昌夫の唄でしか知らなかったコブシの花を初めて見たのもここだった。<植物観察>と名付け、記入式の台帳まで作って、その場で書き込みながら楽しんだものだ」
初老男B「いい趣味ですねえ。今も続けてるんですか」
もろみ五郎「…やめた」
初老男A「ほお、それはまたなぜですか。いい趣味なのに」
もろみ五郎「ちょうどこの頃、会社の上司から戦力外通告を受けたのだ。それで、植物を愛でるゆとりを一気に失った。2013年の夏だった」
初老男B「ま、まあ、そのあたりの話は別の機会にしていただくとしてですね、ええと、何だっけ、あ、定点観測でしたね。今の五郎氏の体験談からわかることは、
- 無理なく歩ける
- 自分の世界が広がる
- 習慣化できる
- お金かからない
…ってところですよね」
初老男A「そうだよな、実にいい趣味だ。植物園まで出かけてとなると、いずれはおっくうになってやめてしまうだろうな。自宅の近所なら生活の一部に組み入れてしまうことも可能だから、長続きすると思うね。今もその庭に行くことはあるんですか」
もろみ五郎「犬の散歩で頻繁に出入りしておる」
初老男B「あ、犬の散歩ですか。それも趣味としては悪くないですよねえ。ただ、犬は人間より老化の速度が速いから、途中で悲しいことになっちゃう場合もありますがね」
初老男A「当サイトでいずれ取り上げられると思うが、 ”ハマのどん” こと藤木幸夫氏も、齢90を超えてなお犬のお散歩を日課にしておられる。犬の散歩は頭を使わないように見えるだろうが、おかしなものを拾い食いしないかとか、車に轢かれないようにとか、いろいろ神経使うからな。心身ともに活性化させる趣味としては優れものだと言っていいだろうな」
もろみ五郎「同感である。体七割頭が三割。この程度の比率で趣味の習慣化をはかるのがよろしかろう」
(了)
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